日曜日を使って「日の名残り」を見た。読み解きする体力は無いが、ずらずらと書くだけ書く。
アンソニー・ホプキンスの演技は素晴らしく、音楽も格調高い。だがそれ以上に極めて政治的な作品ともいえる。
fufufufujitani氏が指摘するように「日の名残り」の主題はブレグジットであるが、さらに踏み込んで「アメリカへの警戒」が挙げられる。
スティーブンスの主人はダーリントン卿だったが彼がナチスびいきのレッテルを貼られて死んでからアメリカ人のルイスが新主人になっている。
原作だとこの新主人の名前はファラディ氏になっている。
あと序盤でスティーブンスの父が執事の品格にまつわる虎の話をする。これは明らかに不自然である。内容はこうである。
「ある日、執事食卓に行くと虎が下に潜っていた。執事は騒ぐことなく主人に虎の射殺の許可を願い出る。間もなく、三発の銃声が聞こてきた。その後、主人に問われた執事は『夕食までにはあらかた痕跡は消えているでしょう』と答える」
だいたいこんな感じだったが、恐らくこれはケネディ暗殺を暗示している。
ケネディの就任演説。4:21くらいから「愚かにも虎の背に乗って権力を欲した者が虎のエサになってしまった」という文言が出てくる。
そして「三発の銃声」というのはケネディ暗殺のときの三発の銃弾であり、「あらかた痕跡を消した」というのは犯人をオズワルドに仕立て上げ、真相を闇に葬ったことを意味している。ちなみに虎とは共産主義者(ソ連)のことを指している。
恐らく新主人のファラディという名前もJohn Fitzgerald Kennedyをもじったものだと察しが付く。
ただスティーブンスが乗っていた自動車はドイツ車のダイムラーである。これがケネディ暗殺時のリンカーン・リムジン、つまりフォード車だったら面白いのだが。原作読んでいないので分からない。
となるとキューバ危機のこととかも出てくると思われるがそこまで解読できる体力がなかったので以上である。
あとはちょこちょこ出てきたドアの覗き穴のシーンやラストの鳩が飛び立つシーンなどから「ニーベルングの指環」も下敷きにしているのかな、と思ったがイマイチ確信が無い。ただダーリントン卿は第一次大戦後のドイツを救おうと奔走するし、通貨問題が議論になるシーンもあったのであながち的外れでもない気がする。
カズオ・イシグロはジョセフ・コンラッドの後継者みたいな作家であり、そのコンラッドの「闇の奥」はニーベルングを下敷きにしている。もっともコンラッドはあまり通貨発行権を取り上げていなかったような。
いずれにしても深く掘り下げるなら原作を読んでからでないとダメである。映画は良いけど色々忖度をしている可能性がある。だから、いつか読むであろう。いつか、多分、きっと読むかも。