読み解きマニュアル~短編ver~
構成読み解きと称して小説、映画、アニメの構成をエクセルに打ち込んでウンウン唸る日々をかれこれ2年ほど続けています。
と、我ながら自己紹介にはいつも「エクセルに打ち込んで」という文言を入れているのですが、具体的に「何を」「どうやって」エクセルに打ち込んでいるのか説明したことがありませんでした。それ以前にそもそもどういう工程で読み解きをしているのかも説明したことがありませんでした。
一応、こんな感じで「章立て表」というものを作っている、解説記事を書いているというのを本記事では紹介します。
短編と長編の場合で、アプローチが異なるので分けて書きます。まずは短編verから。今回は芥川龍之介「歯車」を例にとって説明します。
章立て表の作り方
1.まず通読
とりあえずサラッと読みます。一回通しで読んだ印象が重要なヒントになります。コツはあまり考えないことです。そして、少しでも脳が疲れたと感じたら放棄する。分からないところは後で読み直すことにしてとりあえず読み通すことを意識すると挫折率が下がります。
私は「歯車」を読んで「暗く鬱々とした話がだらだら続くな。作者は真面目すぎて病んでしまったのだろう。もう読みたくないな」と思いました。素直な感想です。川端康成や堀辰雄は傑作だと褒めたらしいですが、関係ありません。
2.エクセルで章立て表を作る
読み終えましたらPCを立ち上げてExcelを開きます。そして章立て表を作成します。
では章立て表とはなんであるか。
章立て表とは、上記記事にあるように作品の全体構成を視覚的に把握する方法のことを指します。試しに「歯車」の章立て表を載せます。
完成形がこんな感じになるのをイメージして表作成に取り組みます。
エクセルで章ごとに一行ずつ分けます。たまに不親切な作者が章分けを明記していないことがあります。困ったんもんです。「トニオ・クレーガー」がそうでした。
そういうときは、行間で区切るしかありません。
行間もない場合は、自分で「場面の変わり目だな」と思う部分で区切るしかありません。「注文の多い料理店」なんかあまりに短すぎて区切りがありませんでした。なので自分で区切りをつけました。
もっとも宮沢賢治という人は大変数学的な構成をする人だったので、この場合は「風がどうと吹いて」文言で区切りがついているのが分かりました。
この章立て表の作り方について詳しい解説が無かったため、読み解き家のみなさんのセンスで作成されていたかと思います。
2.1セルに入力する
まず章内容をセルに入力します。あまり長いとセルに収まらないのでざっくり短くで結構です。
こんな感じです。
基本的には話の内容や場所、特徴的な出来事を単語で羅列するだけです。文章にしてしまうと表がごちゃごちゃして視覚的な明瞭さが失われます。
2.2眺める
表ができたらA4印刷します。
別にA3でも構いませんが持ち運びに不便です。ポケットに忍ばせておいて 暇な時間にチラチラ表を眺めます。傍から見ると変質者ですが研究のためですから止むをえません。眺めているとだんだん共通部分や対になっている部分があることに気づきます。名作とはだいたいそういうもんです。無かったらそれは名作ではないということです。ちょっと暴論ですけど。
2.3色分け
共通項を見つけましたら再びエクセルを開きます。次は色塗りです。色塗りの目的は対句や共通部分を視覚的に強調することです。
「歯車」ですと
こんな感じになります。1章と6章が対応しているなということに気づいて色を塗りました。となると他の部分にも共通項があるのではと勘が働きます。
眺めていると2章と5章で共通項を見つけました。 色分けします。
となると3章と4章にもあるだろうと勘がついていきます。調べると現にそうでした。
これらをまとめると完成形に辿りつきます。
完成した表を見れば真ん中を折り目として対称構造になっているのが分かります。始まりと終わりが共通ですから円環的とも言います。そして内部では共通項が機械のパーツのように緻密に構成されています。まるで「歯車」のように。
2.4簡略化
章立て表ができましたらこれを更に簡略化します。
すっきりしましたね。「歯車」の構成が一目瞭然です。「歯車」はここからさらに構成に工夫がなされていて、
隣り合う章どうしで共通項組んで流れを作っています。 もっともこれはやりすぎです。隣の章でも共通項が組んであるとかえって、読者が対称構造を認識しづらくなるからです。全部の章が似たり寄ったりになってしまう。
3.感想と照らし合わせる
ここで1.まず通読でやった初読の感想を思い出します。
「暗く鬱々とした話がだらだら続くな。作者は真面目すぎて病んでしまったのだろう。もう読みたくないな」
これをここまでの分析に当てはめれば、
暗く鬱々とした話がだらだら続く=対称構造に加えて隣り合う章でも共通項を作っているから全体的に似たり寄ったりになって、物語が単調になっている
作者は真面目すぎて病んでしまったのだろう=作者は対句にこだわりすぎて限度を見失っている
もう読みたくない=技術は凄いが、それが物語の推進力にはなっていない
となります。分析結果がファーストインプレッションから外れていない。読み解きと直感が合致していることになります。ここで合致していないと章立て表が間違っているか、感想が的外れかのどっちかになります。どちらを信じればよいか。自分も感想と一致しないと気持ち悪くなるタイプなのですが、何回検討しても分からないときは章立て表を信じます。
fufufufujitani氏のマクベス解説では、マクベスは「女性性を取り扱った作品」とあります。本人に聞いてみないと分かりませんが、これは氏の初読感想と一致していないと思います。
こういう例もありますので。自分は最終的には章立て表を信じることにしています。とはいえ直感をすぐに捨てることもできないので、ウンウン唸っているわけです。短編の読解で時間かかるのはここですね。
4.主題を掴む(+周辺情報収集)
全体構成が把握できますと、自然に主題を把握できているはずです。作者の伝えたかったことが分かる。なぜか。形式と内容は分離できないからです。全体構成はその物語の主題と密接に関わりがあります。その逆も然りです。
ここで作者の経歴や他の著作も確認しておくと作業がスムーズに進みます。ただし注意して貰いたいことがあります。それは「作品の読解と作者の人生研究を混同してしまう」ことです。ウンチク集めはとても楽しいですが、あくまで補助的なものです。やりすぎは禁物です。
ちなみに周辺情報収集では、年代を意識するのがコツです。前後の出来事も把握するとどういう時代に発表されたのか背景を知ることができます。これも歴史的にインパクトのあるビッグイベントを意識するといいでしょう。
5.記事を書く
「だいたい読み解けたな」という感触を持ちましたら解説記事を書き始めます。「だいたい」でいいのは書いているうちに、またなんか閃くからです。結構あるあるです。
媒体は各自の好みでいいと思います。私ははてなブログです。Naverまとめは終了してしまいましたが、fc2ブログとかWordPress、最近だとnoteなんかが主流ですね。今一番アクセス数が多い媒体でしょう。
記事の構成ですが論文ではないので自由に書けばよいと思います。あんまり文字数が多くて、改行が少ないと露骨にアクセス数が減ります(経験談)。この辺は試行錯誤して自分がしっくりする形式を探すべきです。
以上が短編verのマニュアルです。だいたいこんなもんです。短編は比較的挫折率が低いです。調子がいいとすぐに読み解けることもあります。とりあえず読んだらエクセル開くことから作業は始まります。
次回は長編verの説明をします。