オランウータンの尻子玉
先日、エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人事件」を読んだ。密室殺人を題材にした世界初の推理小説とのこと。
読んでみると普通に楽しい。
ただ、冒頭の「分析能力が〜」という謎の能書きが気になった。ちょっと長ったらしい。チェスの話まで脱線するし。書く必要あったのか。
さらに文中に「上手というのは、通常構成的ないし統合的能力の現れで、〜」とある。
展開としては、その後に事件が発生し、殺人現場の様子やら近くにいた人の証言が述べられる。
恐らく、これらの断片情報を分析・抽出し、統合することで犯人を導き出すという流れが冒頭で暗示されているのだろう。
コンラッドの「闇の奥」である。
「モルグ街」は1841年、「闇の奥」は1899年。(ちなみにシャーロック・ホームズが初登場した「緋色の研究」は1887年)
fufufufujitaniさんが指摘するように「闇の奥」の登場人物統合戦略は「モルグ街」から来ていると思われる。
モルグ街では登場人物の証言や状況証拠といった断片情報を統合して、犯人のオランウータンにたどり着く。
闇の奥では行く先々で出会う登場人物の特徴が統合して、人類の厄災であるクルツにたどり着く。
クルツの身長は2メートルくらいある。オランウータンはそこまで大きくないが、似てなくもない。クルツ=オランウータン
インド諸島の奥地にいたオランウータンを連れてきたのは船乗りで、闇の奥の語り手マーロウも船乗りである。コンラッドが下敷きにした、とまでいかなくともアイデアのヒントにはしたと考えられる。
そして「グレート・ギャツビー」である。
グレート・ギャツビーは闇の奥の後継作品で、主人公の人格がクルツ同様、他の登場人物たちの人格を統合したものになっている。
さらには、作品自体が過去の文芸作品をいくつも下敷きにして統合されたものである、という二重の意味で統合戦略がなされている。
先ほどのNAVERまとめによると名作5本分の統合になっている。どうもこれに「モルグ街の殺人」も下敷きの一つに加えて、6本になりそうだ。
グレート・ギャツビーでも殺人が起きる。デイジーがマートルを轢いてギャツビーと一緒に逃げる。そのギャツビーも最後に死体となっている。誰が殺したのかは断定できない。
そもそもこの小説自体、語り手ニックの視点から曖昧な断片情報しか出てこないので犯人が特定できない。ホームズもいないのでどうしようもない。
フィッツジェラルドのことだからもっと分析すれば元ネタがまだまだ出てくるかもしれない。
なんでこんな話をしているかというと、放送中の「さらざんまい」も元ネタがたくさんあるアニメだからである。
「輪るピングドラム」の解説やった時、幾原監督は宮沢賢治に似てると思ったのだが、下敷きをいくつも重ねたがる感じフィッツジェラルドに似てなくもない。
(ウテナもオマージュいっぱいあると思うのですが確信がありません。幾原マニアの方どうでしょうか)
そして賢治とフィッツジェラルドは同い年なのが面白い。単なる偶然か、それとも村上春樹さん経由で間接的に似てる、という可能性も考えられる。
「さらざんまい」も芥川の「河童」をはじめ下敷きが何枚も出てくる。まあ下敷き何枚も重ねてるから凄い!というとそういう訳じゃないのだが、その辺は最後まで見て判断する。
<参考>
熱心なサラザンマーは絶対に読むべし
こちらは「ピングドラム」です。